サラマンドラの水槽

μία γὰρ χελιδὼν ἔαρ οὐ ποιεῖ, οὐδὲ μία ἡμέρα. (Arist. EN. 1098a18-19)

ギリシア人の食事

 

 

以前の書き込みを有効活用しようということで、以前FBに書いたものの丸々コピペです(あまりにもひどいところは直しました)。FBは以前の書き込みがすべて表示されるわけではないようなので、読書記録としてこっちに残しておきます。

 

 

「食」という観点から古代ギリシアを読み解いた本を読みました。ホメロスからルキアノスという広大な範囲を扱っており、古典研究の面白さを伝えてくれる本です。

 

第I部では特にホメロスにおける英雄たちに焦点が当てられます。「ホメロスにとっては、英雄は肉を食らいワインを飲む存在」(p. 18)ですが、オデュッセウスは食に拘泥する点で人間に近しい英雄です。著者はこのことから、「オデュッセウスはそうした英雄時代から人間の時代へと移りゆく時代を象徴する存在」(p. 24)であると分析しています。ただし、オデュッセウスがそれでも英雄であることはやはり事実であり、「オデュッセウスは半分はまだ英雄である。魚を食べないという一点において」(p. 29)という記述で第I部は終えられます。

 

第II部は「酒」に焦点が当てられ、著者自身の経験も交えられながら、「ギリシア人がワインを薄めて飲んだのはなぜか」ということをはじめとした様々なトピックが軽快な筆運びで論じられます。

 

第III部では、英雄についての第I部とは打って変わって、庶民の食生活に焦点が当てられます。蛸と鰻についての第7章と第8章は必見です。この二つの例からもわかるように、前5世紀から前4世紀のアテナイ人は魚介類を好んで食べていたそうです。第I部と第III部を読むことで、食文化の移り変わりがその時代の主役を如実に表していることが理解されるようになっています。

 

最後の第IV部は「食卓の周辺」がテーマです。悲劇における「食」の少なさの理由を論じた第10章は、第I部や第III部の諸章との繋がりの深い章のように思われました。その後に続く4章は「食」についてまわる様々なトピックを扱ったものです。その中でも古代のトイレ事情を論じた第14章は圧巻であり、このような論じにくい主題についての論考が本書の最後をかざるという構成は素晴らしいと思います。この主題をさらに掘り下げてもおもしろそうです。

 

本書の構成は以上となります。非常に面白く一気に読める本です。唯一の不満点は分量が少ないことですが、新書ということを考えると仕方ないのかもしれません。巻末の引用文献に挙がっている本も読んでみます。