サラマンドラの水槽

μία γὰρ χελιδὼν ἔαρ οὐ ποιεῖ, οὐδὲ μία ἡμέρα. (Arist. EN. 1098a18-19)

古代ギリシアにおける科学 G.E.R. ロイド『初期ギリシア科学』

初期ギリシア科学―タレスからアリストテレスまで (叢書・ウニベルシタス)

初期ギリシア科学―タレスからアリストテレスまで (叢書・ウニベルシタス)

Early Greek Science: Thales to Aristotle

Early Greek Science: Thales to Aristotle

 

『自然学』の読書会を主催している関係もあり、ロイドのこの本を読み直していました。

サブタイトルにあるように、本書は、タレスからアリストテレスまでの自然科学に関する議論を追ったものです。個々の論述が素晴らしいことはもちろんですが、アリストテレスについての第8章は特によくまとまっていると思います。ここでの考察の順番は以下のようなものです。

 

1.『分析論』(特に『後書』)における知識論

2.『動物部分論』等における方法論(〈ロゴイ〉と〈エルガ〉、動物学の勧め)

3.『自然学』等における原因論

4.『天体論』等における天体論とアイテール(アリストテレスの理論は諸々の観察の性急な一般化であるという批判)

5.生物学的著作における生物学

6.まとめ(プラトンアリストテレスの自然科学に対する態度上の類似点と相違点)

  

いずれの問題についても少ない枚数でよくまとめて論じられているため、読みやすく有益です。ただ、その論述方法から、おそらくアリストテレスの学説をすでに或る程度知っている読者に向けてのものであるようですので、入門書としてではなく、自身の考えをまとめるために読むのがよいのではないでしょうか(某原稿を書く前に読みなおしていればよかった……)。

第8章以外ですと、第5章「ヒッポクラテス集典の筆者たち」も楽しく読むことができました。『古い医術について』と『人間の自然本姓について』が重視されているようです。第6章「プラトン」は『ティマイオス』についての議論が中心。第7章「前四世紀の天文学」には、アリストテレスの天文学についての紹介が少しあります。第1章から第4章までは私の苦手な所なので再読の必要アリ。

 

初期ギリシア科学を考察することによって達成されるもっとも重要なこととして、ロイドは、(1)自然現象の理解への数学の適用(ピュタゴラス派、プラトン、エウドクソス等)と、(2)経験的な探求を手がけようとする意図(ヒッポクラテス派、アリストテレス等)との方法論上の主要な二つの原則の開発をわれわれが再認識できるということを挙げ、本書の結論とします。ギリシア人達によるこれらの方法論的原則の実際の応用が成功を収めたか否かについては、同著者の『後期ギリシア科学』で扱われる問題です。

 

後期ギリシア科学―アリストテレス以後 (叢書・ウニベルシタス)

後期ギリシア科学―アリストテレス以後 (叢書・ウニベルシタス)