香西秀信『論理病をなおす!――処方箋としての詭弁』
- 作者: 香西秀信
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/11
- メディア: 新書
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5月に東京の古書店で購入した本を今更読了。
「詭弁論」という分野についての新書です。
この著者の他の本と同じく、とにかく面白い。
著者によれば、詭弁を学ぶことの効用は三つあります(pp. 11-14)。
①相手の用いた詭弁を自らの議論の武器にすることができる。
②われわれ自身が安易に詭弁を用いなくなり、その結果、詭弁など使うことのない「堅気」の人間として生きることができる。
③人間がものを考えるときの本質的な「癖」のようなものが見えてくる。
本書の中で私が注目したいのは、「多義あるいは曖昧の詭弁」を論じた第二章です。
この型の詭弁は従来重視されてきませんでした。
その理由は、「論理学(虚偽論)のテキスト類の多くが、多義あるいは曖昧の詭弁を、全く現実味のない、不適切な例文を用いて説明してきたからである」(p. 40)と著者によって説明されています。
そのような不適切な例文を、著者が挙げる様々な例のうちから一つ引用してみます。
権力(power)は腐敗する傾向がある。
知は力(power)である。
故に、知は腐敗する傾向がある。
このような「児戯に類する例文」(p. 41)の使用が、多義あるいは曖昧の詭弁に対するわれわれの危険性の欠如に繋がっていると著者は述べます。
著者によるこの指摘は、より一般的に、われわれが人に何かを伝えようとする時に真剣な例示選択が必要不可欠であることを教えてくれていると思います。
(なお、この章ではアリストテレスとキケロの使用する例がこき下ろされています。これも面白い。)
ところで、本書でも引用されていますが、アリストテレスには『詭弁論駁論』というテクストがあります。
本書を読むことで、『詭弁論駁論』を読むためのモチベーションを得ることもできました。
【関連文献】
- 作者: アリストテレス,村治能就,宮内璋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1970/02
- メディア: 単行本
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(『詭弁論駁論』の邦訳が、『トピカ』の邦訳とともに収められています。)