『分析論後書』を〈研究する〉
『分析論後書』ブックガイド、最後は『分析論後書』を〈研究する〉です。
〈知る〉ことも〈読む〉こともできたら、後は『分析論後書』という難解なテクストを〈研究する〉ことにチャレンジしていただきたいです。
前回と同じく洋書ばかりになりますが、代表的な単著に絞って紹介していきます*1。
Principles and Proofs: Aristotle's Theory of Demonstrative Science (Princeton Legacy Library)
- 作者:McKirahan, Richard D.
- 発売日: 2017/03/21
- メディア: ペーパーバック
原著は1993年。名著の誉れが高かったものの長らく絶版でしたが、3年前にReprint版が出版されたことで手に取りやすくなりました。
他の研究書に比して「註釈書」の側面を半分ほど有する点に特色があります。
RossやBarnesを読んでよくわからない箇所でも、本書を紐解けば解決するかもしれません(さらに混乱する場合もあります)。
また、古代ギリシア数学史への目配りもよくなされています。
Explaining an Eclipse: Aristotle's Posterior Analytics 2.1-10
- 作者:Goldin, Owen
- 発売日: 1996/04/01
- メディア: ハードカバー
副題の通り、『分析論後書』の中でも第2巻第1章―第10章に考察の範囲を絞った研究書。
本書の特色は、ピロポノスらの古註を現代の研究者たちの解釈の源泉として重要視し、先行学説を批判的に検討する「アポリア的章」である第2巻第3章―第7章を詳細に分析するところに求められます。
ただし、丁寧な考察から導出される結論は「アリストテレスは『分析論後書』において、探究対象の論証を構成する際に様々な学問の類を使用している」という大胆で論争含みのものです。
GoldinやCharlesのものと異なり、『分析論後書』第2巻の探究論よりも、第1巻の論証理論を比較的重視した研究書です。
その関係から『分析論前書』への言及も多く、特に第3章「論証の論理」や第4章「推論と知識の対象」を中心に読むことで、『分析論前書』と『分析論後書』の関係について多くのことを学べると思います。
現代の数学や論理学への参照も随所に含まれます。
Aristotle on Meaning and Essence (Oxford Aristotle Studies)
- 作者:Charles, David
- 発売日: 2003/02/27
- メディア: ペーパーバック
『分析論後書』第2巻第8章―第10章から、アリストテレスの科学的探究についての「三段階説」(科学的探究は探究対象の意味把握、存在の知識、そして本質や原因の発見という段階を踏む)を抽出し、この枠組を基盤とすることで、『分析論後書』のみならず彼の形而上学そのものも考察していきます。
分析哲学的なアリストテレス解釈のお手本のような研究書と言えます(その一方で古典文献学的知見もふんだんに盛り込まれています)。
分量も多く読み解くのには骨が折れますが、『分析論後書』の最も重要な研究書のうちの1冊です。
もっとも最近に出版された『分析論後書』の包括的研究書。
「学習」という観点から、『分析論後書』の一見種々雑多に思われる議論(特に第1巻の論証理論と第2巻の探究論)を統一的に解釈していきます。
理解の困難な「自体性」概念についての説得的な解釈を提出し、その知見を用いて『分析論後書』に含まれる様々な議論に切り込んでいく点に大きな特徴があります。
先行研究もバランスよく紹介されているため、これから『分析論後書』を研究しようとする人はまずこれを手に取るべきでしょう。
ちなみに本書については、『西洋古典学研究』に私が書評を書きました。
日本語の研究書としては本書を挙げます。
原著は2002年。こちらも絶版状態でしたが、3年前からオンデマンド版が販売されています。
著者の千葉惠先生は、先に参照したDavid Charlesの弟子です。
『分析論後書』に絞った研究書ではありませんが、特にその長大な序章で提示されるアリストテレス方法論についての独自で説得的な解釈は、このテクストを読み解くうえで重要な多くの示唆を与えてくれます。
最後に、拙著について付言させてください。
本書は、『分析論後書』第1巻の論証理論と第2巻の探究論の両者を「統一的」に解釈するような視座を「知識」という概念に求めました。
このように、何らかの観点から『分析論後書』の議論を整合的に読み解こうとする方向性はBrosnteinの著作と共有されています。
しかし、その観点の違いが、同じ『分析論後書』という著作への異なった解釈の方向性を生み出しています。
すなわち、Bronsteinが『分析論後書』のについて、専門家になるための学習過程を示すものと解する一方で、拙著は専門家の研究活動そのもの(規範的な方法論)を明確化しそれを聴講者に教示するものと理解します。
おそらくこの相違点が、参照するテクストの選定にも影響を与えています(一例を挙げれば、Bronsteinは第1巻第2章72a18-24の基礎措定についてあまり多くのことを述べません)。
以上で、『分析論後書』を〈知る〉、〈読む〉、そして〈研究する〉ための情報は一定程度獲得できたと思います。
難解で面白い『分析論後書』にぜひ取り組んでみてください!
*1:したがって、本来であれば紹介すべき以下の研究書や論文集などには触れませんでした。
Aristotle's Theory of Language and Meaning (English Edition)
- 作者:Modrak, Deborah K. W.
- 発売日: 2000/10/30
- メディア: Kindle版
『分析論後書』を〈読む〉
「『分析論後書』を〈知る〉」から引き続き、ブックガイド第2弾「『分析論後書』を〈読む〉」です。
『分析論後書』はアリストテレスの著作なので、当然、原典は古典ギリシア語で書かれています。
『分析論後書』のギリシア語は(アリストテレスの他の著作もそうですが)難しくはないものの不親切ですので、ギリシア語を読める人であっても、いきなりそこに突入するよりは邦訳から手にとっていった方がいいと思います。
◯邦訳
高橋久一郎先生による新訳。
Barnesの註釈書出版後の翻訳ということに加藤信朗先生の旧訳との最大の違いがあります。
翻訳本文以外にも、脚注、補注、そして解説のすべてが有益。
一読しただけではどのような意図があるのか分かりづらい脚注であっても、再訪すると新しい発見が必ずあります。
また、補注は重要なテクニカルタームや解釈上の争点を明示していますし、解説も『分析論後書』についての先行研究を手際よくまとめています。
まずはこの訳書からスタートしましょう。
1971年に出版されているため半世紀前の翻訳ということになります。
さすがに訳文などは時代を感じさせますが、いまだに参照すべき翻訳です。
Barnesの註解以前の仕事ですので、逆に、その影響下にない解釈を知ることもできます。
旧訳ではあるものの貴重な邦訳のうちの1冊ということもあり、所有できる機会があればそれを逃したくないものです。
邦訳にひととおり目を通し、古典ギリシア語も読める人は原典に向かいましょう。
◯テクスト
Aristotelis Analytica Priora Et Posteriora (Oxford Classical Texts)
- 作者:Aristotle
- 発売日: 1981/05/21
- メディア: ハードカバー
ギリシア語で読む場合、基本的にはこのテクストを使用することになるでしょう。
私の情報不足かもしれませんが、『ニコマコス倫理学』などと違い、このOCT版の校訂についての悪評はあまり聞いたことがありません。
ただし、OCTではなくこちらを使用した方がよいと主張する研究者たちがいます(たとえば国内では、千葉先生のこの論文が第2巻第8章93a4のei estiをBekkerに従ってti estiと読み変えるべしと強く主張しています)。
私もこちらを適宜参照しています。
……とは言ったものの、ギリシア語が読めることはアリストテレスの書く文章を理解できることを必ずしも含意しません。
そこで役に立つのが、文章の意味やそこで使用されている言葉の内実を説明してくれる「註解」です。
以下では、代表的なものに限りこの注解を紹介していきます。
◯註解
基本の基です。OCT版に注解が付いたものと考えればいいと思います。
元は70年前のものですが、現在でも権威ある古典的註解として使用されています。
『分析論前書』のテクストと註解も付いておりお得です。
Posterior Analytics (Clarendon Aristotle) (Clarendon Aristotle Series)
- 作者:Aristotle, Aristotle
- 発売日: 1994/03/24
- メディア: ペーパーバック
Barnesによる註解の第一版と第二版。『分析論後書』研究のメルクマールとなった註解です。
分析哲学的手法で『分析論後書』のテクストをバッサバッサと切っていきます。
多くのテクストについて決定的な解釈を提示しており、Rossのものと同じく必携です。
ただ、解釈が困難な箇所についてはありうる解釈方針を網羅するだけで結論を提示しない場合もあり、これを読むだけで話が終わるわけではありません。
ドイツ語の註解。詳細かつ網羅的であり、RossやBarnesを読んでもわからない箇所や、彼らが解釈を行なっていない箇所をカバーできます。
註解が3部分に分かれているのが特徴であり、章ごとに、その章全体の要約的註、その解釈史、そして個々のテクストについての詳細な註解を含みます。
ちなみに、待てど暮らせど第二版が出版されないことでも有名でしたが、Amazonを見ていると、昨年暮れにそちらもとうとう出版されたようです。
未読どころか未入手なので、早く手に入れなければ……。
20200626追記: コメント欄で、どうやらこれはただの重版であるらしいことを教えていただきました、ありがとうございます。
Commentary on Aristotle's Posterior Analytics (Aristotelian Commentary Series)
- 作者:Thomas, Aquinas, Saint
- 発売日: 2008/01/10
- メディア: ハードカバー
トマス・アクィナスの『分析論後書』註解(ラテン語原典がAmazonに見つからないので英訳を挙げておきます)。
トマスによる議論の要約・整理はさすがに見事なもので、テクストを熟読し現代の諸註解を参照しても文意を掴めない箇所について、この註解を読むだけでその内実が明らかになる場合があります。
また、当然ながら現代の解釈論争とは(800年ほど)距離を取った註解なので、思いもよらない解釈を教えてくれる場合も多いです。
ただ私から見ると、『分析論後書』の議論の中にかなり無造作に質料形相論を導入しているので、そこには注意して読む必要があるかもしれません。
ひとまず、以上の文献を活用すれば『分析論後書』を読みこなせるようになると思います。
いよいよ、『分析論後書』を研究していきましょう!
『分析論後書』を〈知る〉
先日、拙著『アリストテレスの知識論――『分析論後書』の統一的解釈の試み』(九州大学出版会, 2020)が出版されました。
本書では、一見まとまりがないように見える『分析論後書』の内容を可能な限り整合的に読解することによって、アリストテレスの「知識(エピステーメー)」論の内実を明らかにしました。
ただ、本書は研究書ということもあり、『分析論後書』についての予備知識をまったく持たない方にとっては(そのような方がどれほどこの本を読んでいただけるのかは定かではありませんが……)読みづらいものであることが予測されます。
また、本書を読んで『分析論後書』を実際に読んでみようと思い立った方が(こちらはさらに少なそうです)道標にできるような情報も、日本語ではそれほど多くありません。
さらに、本書の議論に納得がいかずそれを反駁しようと考える方は(このような方がいてくだされば、本書は研究書としてかなりの成功を収めたことになるでしょうが)、自身で様々な研究書を読みこなし、『分析論後書』を研究していかなければなりません。
そこで、拙著の宣伝も兼ねて、本ブログで「『分析論後書』を〈知る〉」、「『分析論後書』を〈読む〉」、そして「『分析論後書』を〈研究する〉」という3つのエントリを作成します。
まずは、「『分析論後書』を〈知る〉」です。
古代ギリシア哲学の専門家でもない限り、『分析論後書』と聞いて「あー!アリストテレスのアレね!!」と即座に連想できる人はそれほど多くないと思います。
逆もまた然りで、アリストテレスの著作として『形而上学』や『ニコマコス倫理学』が挙げられることがあっても、『分析論後書』が示されることは稀です。
このような事態が生じている原因は、『分析論後書』を参照する日本語の文献が少ないことにあると思われます。
特に、最近では事情が少し異なるとはいえ、哲学史の教科書においてこの著作の中身が解説されることはほとんどありませんでした。
触れる機会が少なければその対象についての興味を掻き立てられることもなく、興味を持てないテクストをあえて読む人も少ないでしょう。
しかし、『分析論後書』は非常に面白い「哲学書」であり、後世の哲学史・科学史に与えてきた影響力も甚大です。
そこで、本エントリでは、『分析論後書』について触れている日本語で読める文献を6点ピックアップして簡単にご紹介します。
どの本も、基本的には『分析論後書』についての予備知識がまったくなくとも読むことができるはずです。
第5章「アリストテレス」の中の第2節「知識」で『分析論後書』の議論がかなり細かく紹介されています。
加藤先生は旧版の岩波アリストテレス全集の『分析論後書』の翻訳者です。
ギリシアに絞っているとはいえ、日本人による「哲学史」の本の中でこれほど詳しく『分析論後書』の議論が説明されたのは初めてだったのではないでしょうか*1。
第5章「アリストテレス」の中の第5節「知」で『分析論後書』が紹介されています。
執筆者は慶應義塾大学の金子善彦先生です。
こちらは上記の加藤先生のものに比べ記述が平易で、かつ、『分析論後書』と自然哲学との関係性にも目配りを示している点に特徴があります。
また、基礎措定についての解釈方針など、私自身も同意する箇所が多いです。
第III部がアリストテレスに充てられており、その最終章である第15章で『分析論後書』が扱われています。
アリストテレスの議論のすべてを救おうとせず、一貫した解釈が難しい場合にはそれを明言する点に特徴があります。
先の加藤先生や金子先生による説明と天野先生のこの批判的な読み筋を比較すると、『分析論後書』というテクストについての理解がより深まると思われます。
序章「必然性小史――アリストテレスからフレーゲまで」の冒頭部で、『分析論後書』の議論を参照しつつ、アリストテレス哲学における本質と必然性の関係についての簡潔にして要を得た説明が展開されます。
読み進めるにつれ、アリストテレスの議論の哲学史的重要性を徐々に理解できる仕組みになっています。
私自身、『分析論後書』を本格的に読解・研究する前に飯田先生のこの箇所を読み、その重要性をよく理解することができました。
第3章において、アリストテレスの『分析論後書』における知識観が、ソクラテスやプラトンが保有していた確実性への指向の影響のもとで成立した「過去指向の知」であることが明らかにされます。
飯田先生の本と同じく、『分析論後書』の議論を特定の哲学史的流れの中で理解することができると思います。
第2章「科学はヨーロッパから生まれたのだろうか?」において、『分析論後書』で提示される「論証科学」という枠組みが中世イスラーム世界でどのように受容されたかが詳しく説明されています。
先述の飯田先生や大出先生の著作が『分析論後書』の哲学史的重要性を提示する一方、こちらはその科学史的影響力を学ぶことができます。
以上の本を読み『分析論後書』で論じられている内容について当たりをつけることができたら、次は「『分析論後書』を〈読む〉」ことにチャレンジしていけると思います。
*1:私が無知なだけの可能性があります。情報提供をお待ちしています。
2019年の成果
旧年中は大変お世話になりました。
本年もよろしくお願い申し上げます。
昨年もいろいろなことがあった年でした。
もちろん一番大きかったのは、九州大学の助教を退職後、スムーズに環太平洋大学に講師として着任できたことです。
おかげさまで、腰を落ち着けて研究と教育を行うことができており大変助かっています。
岡山の地も私にとっては過ごしやすいです。
以下、昨年の成果です。
【2019年の成果】
受賞(1件)
・酒井健太朗「九州大学大学院人文科学研究院人文科学府長賞(大賞)」(博士論文「知識と方法ーーアリストテレス『分析論後書』における論証と探究の観点から」に対して),2019.
委員(1件)
・国立教育政策研究所 チューニング情報拠点外部委員(2019年6月より継続中)
論文(3本)
・酒井健太朗「規範事例型の実践的推論について――アリストテレス『ニコマコス倫理学』の行為論」,日本倫理学会『倫理学年報』68,2019,pp. 97-111.
・Sakai,K. 「Knowledge by Acquaintance : A Note on Plato's Meno 71b3-6」,九州大学大学院人文科学研究院『哲學年報』78 (円谷裕二教授定年退職記念特輯),2019,pp. 1-6.
・酒井健太朗「論証と原因ーーアリストテレス『分析論後書』第2巻第11章を手がかりに」,日本哲学会『哲学』70,2019,pp. 205-219.
書評(1本)
・酒井健太朗「書評:古田徹也『不道徳的倫理学講義――人生にとって運とは何か』(ちくま新書,2019年)」,『フィルカル』4(3),2019,pp. 382-401.
発表(4件)
・酒井健太朗「時間と因果ーーアリストテレス『分析論後書』第2巻第12章」,因果と時間:哲学的因果論の最前線(時間学公開学術シンポジウム2019),2019.
・田中一孝,酒井健太朗「技術者倫理教育・達成度評価の現状と課題」,チューニングによる大学教育のグローバル質保証ーーテスト問題バンクの取組(テスト問題バンク研究会),2019.
・酒井健太朗「国内外教育機関における「哲学対話」の取り組みのサーベイ」,九州大学哲学・倫理学研究会第7回例会,2019.
・酒井健太朗「知識とカテゴリー――アリストテレス『分析論後書』第1巻第19章―第23章を手がかりに」,カテゴリー論としてのヘーゲル論理学――その歴史的位置づけと射程について(日本ヘーゲル学会第30回大会シンポジウム),2019.
競争的資金等の研究課題(1件)
・酒井健太朗(代表)「非認知能力をベースとした幼小連携カリキュラム開発ーー「哲学対話」という手法に着目して」環太平洋大学: 学内特別研究費(共同研究),研究期間: 2019年4月- 2020年3月.
社会貢献活動(1件)
・酒井健太朗「やっぱり知りたい!アリストテレス」,GACCOH,2019.
こうして見ると、受賞やシンポジウム、書評など、新しいこと尽くしの年だったことがわかります。
また、勤め先が教育学部になった関係もあり、国研の外部委員になったり、教育学関連の業績が増えたりもしました。
これからも新しいことにどんどん挑戦していきたいと思います。
そして、2ヶ月後には単著が九州大学出版会より刊行予定です(ほとんど作業は終わっています。また詳細は追って報告します)。
この拙著の合評会も計画していただいておりますし、生命倫理の翻訳やプラトン関連の紀要論文、欧語文献の書評も出ます。
今年も色々と忙しくなりそうですが微力を尽くしたく思いますので、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
古代ギリシア哲学を学びたい人のためのブックガイド(未完成版)
※2019/3/12 文献を2点追加。それに伴い他の紹介文も少し変更。
ある場所でのやり取りがきっかけで、少し前から作ってました。
タイトルにある通り未完成版ですが、ためしに公開してみたいと思います(特に1と2が弱いので、これから追加されていくと思います)*1。
この手のリストで万人が納得するものを作成することは不可能だと思いますので、私自身の趣味が色濃く出ている選書となっていることを先にお断りしておきます。
また、こちらも突っ込まれる前に言っておくと、ヘレニズム哲学には不案内のため今回は省いています(もう少しきちんと勉強しないといけませんがなかなか時間が取れません……)。
選定の基準は、
(1)日本語の書籍であること(辞書や文法書は除く)
(2)内容の点でお勧めであること
の2点です。そのため、絶版となっている書籍が挙げられている場合もあります。その場合は図書館等で参照してください。
1.古代ギリシア文化
・斎藤忍随 (2007)『ギリシア文学散歩』東京, 岩波書店.
文学という括りのもと、古代ギリシアの神話・悲劇・歴史・哲学などの様々な著作を紹介した本。読み物としても面白くすらすら読めます。
・周藤芳幸 (2006)『古代ギリシア──地中海への展開』京都, 京都大学出版会.
古代ギリシア 地中海への展開―諸文明の起源〈7〉 (学術選書)
- 作者: 周藤芳幸
- 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
- 発売日: 2006/10/01
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古代ギリシア哲学を理解するためには文明史的視点を学ぶことも重要です。これ1冊でかなりの程度まで古代ギリシア文明史を学ぶことができます。
2.古代ギリシアの科学
2.1.古代ギリシアの科学全般
・G. E. R. ロイド (1994)『初期ギリシア科学──タレスからアリストテレスまで』(山野耕治・山口義久訳)東京, 法政大学出版局.
初期ギリシア科学―タレスからアリストテレスまで (叢書・ウニベルシタス)
- 作者: G.E.R.ロイド,Geoffrey Ernest Richard Lloyd,山野耕治,山口義久
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 1994/12/01
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・G. E. R. ロイド (2000)『後期ギリシア科学──アリストテレス以後』(山野耕治・山口義久・金山弥平訳)東京, 法政大学出版局.
後期ギリシア科学―アリストテレス以後 (叢書・ウニベルシタス)
- 作者: G.E.R.ロイド,Geoffrey Ernest Richard Lloyd,山野耕治,金山弥平,山口義久
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 2000/01/01
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碩学によるギリシア科学史の著作の邦訳。内容は網羅的、かつ詳細です。
2.2.古代ギリシア数学
・斎藤憲 (2008)『ユークリッド『原論』とは何か──二千年読みつがれた数学の古典』東京, 岩波書店.
ユークリッド『原論』とは何か―二千年読みつがれた数学の古典 (岩波科学ライブラリー)
- 作者: 斎藤憲
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/09/17
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・斎藤憲 (1997) 『ユークリッド『原論』の成立──古代の伝承と現代の神話』, 東京, 東京大学出版会.
古代ギリシアの科学の中でも数学は哲学との関係上最も重要です。幸い、現代日本にはエウクレイデス(ユークリッド)研究の第一人者がいるので、その入門書と研究書を読むことができます。
・片山千佳子・斎藤憲・鈴木孝典・高橋憲一・三浦伸夫訳・解説 (2008-) 『エウクレイデス全集全5巻』東京, 東京大学出版会.
エウクレイデス全集〈第4巻〉デドメナ/オプティカ/カトプトリカ
- 作者: 斎藤憲,高橋憲一
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2010/06/01
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エウクレイデスについての世界最初の近代語訳全集。このような優れた仕事を日本語で読める私たちは本当に恵まれています。解説も丁寧であり必携です。第3巻と第5巻が未公刊。
3.古代ギリシア哲学史
加藤信朗 (1996) 『ギリシア哲学史』東京, 東京大学出版会.
1人の著者が書いたものをお探しの方はこちらを。
私自身、哲学を勉強したての頃の教材としてこの本を使用していましたが、今読み返しても学ぶところが多いです。
・内山勝利・中川純男編著 (1996) 『西洋哲学史 古代・中世編──フィロソフィアの源流と伝統』京都, ミネルヴァ書房.
・内山勝利編 (2008) 『哲学の歴史〈第1巻〉──哲学誕生』東京, 中央公論新社.
・内山勝利編 (2007) 『哲学の歴史〈第2巻〉──帝国と賢者』東京, 中央公論新社.
・神崎繁・熊野純彦・鈴木泉編 (2011) 『西洋哲学史I──「ある」の衝撃からはじまる』東京, 講談社.
西洋哲学史 1 「ある」の衝撃からはじまる (講談社選書メチエ)
- 作者: 神崎繁,熊野純彦,鈴木泉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/12
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こちらはいずれも共著です。これらを読みこなせば古代ギリシア哲学史の知識は相当程度つくはずです。古い順に読んでいくことを勧めます。
4.初期ギリシア哲学(ソクラテス以前の哲学)
4.1.初期ギリシア哲学全般
・廣川洋一 (1997)『ソクラテス以前の哲学者』東京, 講談社.
・内山勝利他訳 (2006)『ソクラテス以前の哲学者たち 第二版』京都, 京都大学出版会.
- 作者: ジェフリー・スティーヴンカーク,マルコムスコフィールド,ジョン・アールレイヴン,Geoffrey Stephen Kirk,Malcolm Schofield,John Earle Raven,内山勝利,國方栄二,丸橋裕,木原志乃,三浦要
- 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
- 発売日: 2006/11
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まずはこの2冊に目を通すことをお勧めします。
・内山勝利編 (1996-1998) 『ソクラテス以前哲学者断片集』全5巻+別冊, 東京, 岩波書店.
実際にテクストに触れたくなったらこちらを。
5.ソクラテス
・田中美知太郎 (1957) 『ソクラテス』東京, 岩波書店.
・岩田靖夫 (2014) 『増補 ソクラテス』東京, 筑摩書房.
・納富信留 (2017) 『哲学の誕生──ソクラテスとは何者か』東京, 筑摩書房.
ソクラテスについて知りたければこの3冊を読みましょう。
・納富信留訳 (2012) 『ソクラテスの弁明』東京, 光文社.
実際にソクラテスの哲学へ触れたい人の最初の1冊。有益な訳者解説も付いています。
6.プラトン
6.1.入門書
・R. S.ブラック (1992) 『プラトン入門』(内山勝利訳)東京, 岩波書店.
- 作者: R.S.ブラック,R.S. Bluck,内山勝利
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1992/06/16
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夭折した研究者によるプラトン入門。比較的中立的な観点から書かれているので入門書としてふさわしいと思います。『第七書簡』の訳も収められておりお得です。絶版なのが惜しいところ。
・藤沢令夫 (1998) 『プラトンの哲学』東京, 岩波書店.
・納富信留 (2015) 『プラトンとの哲学──対話篇をよむ』東京, 岩波書店.
日本人の書いたプラトン哲学の入門書も2冊挙げておきます。いずれも名著の誉れ高い新書です。
6.2.テクスト
・藤沢令夫訳 (1994) 『メノン』東京, 岩波書店.
プラトン哲学への最良の手引きです。
・岩田靖夫訳 (1998) 『パイドン──魂の不死について』東京, 岩波書店.
「プラトンらしさ」なるものがあるとして、この本ほどそれが出ているものも他にないと思います。
・藤沢令夫訳 (1979) 『国家(上下巻)』東京, 岩波書店.
プラトンの哲学を理解するためには避けて通れません。
・田中美知太郎訳 (2014) 『テアイテトス』東京, 岩波書店.
後期対話篇からも1冊。知識論の古典であり大事な(そして厄介な)本。
6.3.研究書
・加藤信朗 (1988) 『初期プラトン哲学』東京, 東京大学出版会.
・松永雄二 (1993) 『知と不知』東京, 東京大学出版会.
・納富信留 (2002) 『ソフィストと哲学者の間──プラトン『ソフィスト』を読む』愛知, 名古屋大学出版会.
・神崎繁 (1999)『プラトンと反遠近法』東京, 新書館.
プラトンについては膨大な数の研究書が存在しますが、初期(加藤)、中期(松永)、後期(納富)対話篇の研究書としてそれぞれ1冊ずつ挙げておきます。一番下の神崎先生の本は趣味で挙げましたが、古代哲学研究の醍醐味を教えてくれる本だと思いますので、ぜひとも読んでほしい研究書です。
7.アリストテレス
7.1.入門書
・山口義久 (2001) 『アリストテレス入門』東京, 筑摩書房.
中立的で素晴らしい入門書。アリストテレスに入門したいのであれば第一にこれを読むことを強く勧めます。
・G. E. R. ロイド (1973) 『アリストテレス──その思想の成長と構造』(川田殖訳)東京, みすず書房
・J. L. アクリル (1985) 『哲学者アリストテレス』(藤沢令夫・山口義久訳)東京, 紀伊國屋書店.
山口本を読んだあとにはこの2冊に進みたい。アリストテレス(哲学)についてより細かなことを学べます。両著者とも古典研究の超大物です。両書とも絶版なのが非常に残念。
・今道友信 (2004) 『アリストテレス』東京, 講談社.
もともと「人類の知的遺産」シリーズの1冊だった本。内容的にやや高級です。日本のアリストテレス受容などの興味深いトピックにも触れられているため、山口・ロイド・アクリル本の後に読むといいと思います。
7.2.テクスト
・出隆訳 (1959-1961)『形而上学(上下巻)』東京, 岩波書店.
・中畑正志訳 (2014) 『魂について』東京, 岩波書店.
魂について 自然学小論集 (新版 アリストテレス全集 第7巻)
- 作者: アリストテレス,内山勝利,神崎繁,中畑正志
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/02/07
- メディア: 単行本
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・神崎繁訳 (2014) 『ニコマコス倫理学』東京, 岩波書店.
アリストテレスの主著であり、哲学史的にも重要なテクスト3冊。
下の2冊は新アリストテレス全集の訳を、『形而上学』はまだそちらの訳が出版されていないので岩波文庫版を挙げておきます。
これらに限らずアリストテレスは、プラトンと異なりテクストだけを読むと挫折してしまう可能性が高い(と思われる)ので*2、必ず入門書を読んでからテクストに触れることをオススメします。
7.3.研究書
・岩田圭一 (2015)『アリストテレスの存在論』東京, 早稲田大学出版部.
アリストテレスの『形而上学』、特にその存在論に関心がある人は必ず読むべきです。高価なうえに大部ですが、難解な『形而上学』ΖΗΘ巻のテクストを1つ1つ丹念に解きほぐしており、古典研究の1つの典型例を示してくれる本になっています。
・中畑正志 (2011)『魂の変容──心的基礎概念の歴史的構成』東京, 岩波書店.
アリストテレスの認識論や心の哲学に関心がある人はこちらを。現代哲学とのアクセスを確保しながらアリストテレス哲学の重要性を説得的に論じている本です。
・岩田靖夫 (1985)『アリストテレスの倫理思想』東京, 岩波書店.
これはアリストテレスの倫理学に関心がある人に。少し古いですが、1冊にまとまったアリストテレス倫理学の研究書として貴重な本です。
8.古代ギリシア語
8.1.古代ギリシア語入門
・河島思朗 (2017) 『ギリシャ語練習プリント』東京, 小学館.
初歩の初歩をドリル形式で学べます。古代ギリシア語に慣れる意味でも、一番最初に手に取る本として優れていると思います。
・田中美知太郎・松平千秋 (2012) 『ギリシア語入門 新装版』東京, 岩波書店.
解答がないため独習には向きませんが、ロングセラーなだけあってよく考えて作られている入門書です。
・山口義久監修 (2016) 『古代ギリシャ語語彙集 改訂版』大阪, 大阪公立大学共同出版会.
古代ギリシャ語語彙集 改訂版 基本語から歴史/哲学/文学/新約聖書まで
- 作者: 山口義久,Thomas Meyer,Hermann Steinthal
- 出版社/メーカー: 大阪公立大学共同出版会
- 発売日: 2016/04/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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単語帳。これを1冊覚えれば相当な力がつくはずです。
・池田黎太郎 (2018) 『古典ギリシア語入門』東京, 白水社.
CDと練習問題の解答が付いているので、独習も可能な入門書。
8.2.古代ギリシア語文法
・高津春繁 (1960) 『ギリシア語文法』東京, 岩波書店.
日本語で読める体系的な文法書として現在のところこれ以上のものはありません。オンデマンドになって入手しやすくなったのは本当に素晴らしいことです。
・Smyth, H. W. (1920) Greek Grammar, Cambridge: Harvard University Press.
本気で古代ギリシア語をやりたいのであれば所有しておく必要があります。ただし、ひとまず初学者は先の高津のもので十分でしょう。
・Denniston, J. D. (1996) The Greek Particles,2nd edition, Indianapolis: Hackett Publishing Company.
- 作者: John Dewar Denniston
- 出版社/メーカー: Hackett Pub Co Inc
- 発売日: 1996/11/01
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これも本気で古代ギリシア語をやるなら必要です。小辞(particle)を集中的に扱う文法書。
8.3.古代ギリシア語辞書
・古川晴風 (1989) 『ギリシャ語辞典』東京, 大学書林.
・アウグスチン・シュタウブ編 (2010) 『シュタウブ希和辞典』東京, リトン.
新約聖書に偏っていない希和辞典としてこの2冊が挙げられます。しかし、古川のものはいくらなんでも高すぎますから、実質シュタウブのものを選ぶことになるでしょう。
・Liddle, H. G., Scott, R. and Jones, H. S. (1996). A Greek-English Lexicon, 9th ed., Oxford: Oxford University Press.
- 作者: Henry George Liddell,Robert Scott,Henry Stuart Jones,Roderick McKenzie
- 出版社/メーカー: Clarendon Pr
- 発売日: 1996/08/01
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英語が読めるなら当然これを使うことになります。これを大辞典として、より簡便な中辞典と小辞典もあり、初学者はたいていまずそちらから購入して使用します。
古代哲学会と美山町訪問
古代哲学会の『古代哲学研究(メトドス)』に以下の論文が掲載されたので、それについての談話会に出席してきました。
20人超の古代哲学研究者が集まるとても活気のある会でした。
私の論文にも様々なコメントを頂戴できたので、それをもとにリバイズし博士論文の一部にできたらいいなと考えています。
さて、京都は高校生の頃の修学旅行以来12年ぶりに訪問したので、観光もしてきました。
まずは8/5(土)に、談話会が午後からでしたので、午前中に伏見稲荷大社の千本鳥居を見に行きました。外国人観光客の数が多くあまりゆっくりと観光はできませんでしたが、それでも千本鳥居の荘厳さには圧倒されました。
空が黒と青に分かれていてきれいです。
土曜日の朝なので活気がありました。
長い!大きい!
ミニ鳥居の群れ
しかし何と言っても、8/6(日)に訪問した京都府南丹市の美山町は素晴らしかったです。この集落は国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されており、日本の原風景に近いものを見ることができます。昨年にその存在を知り、機会があれば訪れたいと思っていたので、ようやく望みを叶えられました。
京都駅から電車とバスを乗り継いで一時間半。バスを降りたらこのような光景が拡がります。晴天にも恵まれました。
最も来たかった「かやぶきの里」。
かやぶきの里の中にひっそりと建っている稲荷神社。
普明寺。
普明寺を出たところからの眺め。
よくわからない看板。
知井八幡宮。もちろん神楽殿もあり、理想的な神社でした。静謐な雰囲気が素敵です!
他にも、かやぶきの里の中で米粉パンを食べたりジェラートを食べたりネギ味噌おにぎりを食べたりしました。
本当に癒やされたので、京都を訪問された際にはぜひぜひ足をのばしてみてください。
※こんな本が3月に出版されていたようなので、機会を見つけて読んでみます。面白そうです。